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ストラテジストの視点①
すべてのものごとにはふさわしい「タイミング」がある。

間宮 洋介

「別れ」と「刻(とき)」と「戦略とは」の話です。

「別れ」と「後悔」

人が生きていく上では、必ず別れが訪れます。

恋人との別れ、親との別れ、ペットとの別れ。

どの別れも辛くて、癒えるのに時間がかかります。

 

とくに、普段から自分の感情をあまり表に出さない相手や、

ペットなど、意思疎通が完全にはとりきれない相手の場合、

その別れは突然訪れることがあります。

たとえ毎日顔を合わせていたとしても、

相手の心の中の変化を感じることはなかなか難しいからです。

 

居てくれて当たり前だと思っていたものを失ってしまった時、

人はどうしようもなく淋しく感じ、そして不安になります。

 

 

「淋しさ」には慣れる。
でも「後悔」は無くならない。

時が経つにつれ、人はその淋しさには徐々に慣れていきます。

別れの辛さがなかなか癒えないのは、淋しいからだけではありません。

 

ほとんどの場合、別れに際して、人は「後悔」します。

 

なんであの時、相手の悩みに気付けなかったのだろう。

なんであの時、話を聞いてあげられなかったのだろう。

なんであの時、感謝の気持ちを言葉にしなかったのだろう。

なんであの時、あんなことを言ってしまったんだろう。

なんで、もっともっと会いに行かなかったのだろう。

なんで、もっともっと可愛がってあげなかったのだろう。

なんで、もっともっと大事にしなかったのだろう。

人は、別れに直面した時、自分の過去の行動を振り返り、強烈に後悔します。

相手の気持ちに無頓着ではなかったか、傲慢ではなかったか。

でも、その時にいくら「もっと話を聞くから」「もっと会いに行くから」「もっと大事にするから」と強く思っても、またそれを強く伝えても、もう事態は覆りません。

むしろ、それを伝えたことで事態が悪化することのがほとんどです。

 

すべてのものごとには、
それに適したタイミングがある。

後悔先に立たず。

覆水盆に返らず。

 

もっと話を聞くこと、も

もっと会いに行くこと、も

もっと大事にすること、も

 

すべき時を逸したら、いくら正しいことでも正しくなくなります。

すべてのものごとには、それに適したタイミングがあるのです。

手遅れになってしまった、という「後悔」は、

「痛み」となって、いつまでも自分を責め続けることになります。

 

突然やってくる、顧客との「別れ」

企業のマーケティング戦略についてはどうでしょうか。

 

完全な新興企業や事業は別にして、

多くの場合、企業(商品やサービス、企業そのもの)に対して

愛を持ってくれている顧客が存在しています。

 

彼らがその企業を愛してくれている理由は様々です。

そして、彼らは、自らの要求を大声で主張することはないかもしれません。

企業にとって、彼らはいて当たり前、自分を愛し続けてくれて当たり前、

という状況に見えているかもしれません。

 

顧客からの「愛」は永遠とは限らない。

でも彼らの心の中では常に変化が起きています。

そして、あるとき、何かのきっかけで、

彼らはその企業からの別れを決意するかもしれません。

何も言わずに、そっと。

「変えること」を
ゴールにしてしまうことの落とし穴。

マーケティングというのは常に新しい顧客を獲得することを命題としています。

それゆえ、企業はどうしても「新しいこと」「改善できること」に目を向けがちになります。

その結果、毎年のようにマーケティング戦略が書き換えられ、

世の中に見えるものが変わっていくことがよくあります。

商品パッケージしかり、

コンセプトしかり、

コミュニケーションしかり。

 

もちろん、「変える」ことが悪いわけではありませんし、

それによって、新しく獲得した顧客の数が増えれば、

そのマーケティングは成功なのかもしれません。

 

でも、もしかしたら、その「変える」ことは、

今まで自分を愛し続けてくれた人との「別れ」をもたらすことになるかもしれません。

そして、その「別れ」は、後になって取り戻そうとしても手遅れとなります。

 

「ほんとうに大切なのは誰か」を
考えることの大切さ。

 

後悔先に立たず。

覆水盆に返らず。

 

変えることは、ある意味簡単です。

今と違うことをやればいいからです。

でも、それをすべきなのは、本当に「今」なのか。

それは、長く自分を愛してくれた顧客を失望させたり、

彼らに対して傲慢であったりはしないか。

 

人口が減少し、消費意欲も爆発的に拡大するとは思えない現代社会において、

長く愛してくれる顧客と別れてしまうことに、

企業はもっと「痛み」と「後悔」を感じるべきだと思います。

【再び】すべてのものごとには、
タイミングがある。

関係が長く続いてくると、人はその関係に無自覚になります。

当たり前だと思うようになります。

相手の状況の変化に気づく努力を怠るようになります。

 

企業も同じです。

とくに、顧客一人ひとりの顔を見ることがなかなかできず、

また、成績を数で、しかも短期スパンで把握せざるをえない企業にとって、

彼らの心の変化に気づくことは難しいことなのかもしれません。

 

でも、彼らに対して、

 

もっと話を聞くこと、も

もっと会いに行くこと、も

もっと大事にすること、も

 

後になって慌ててやろうとしても、

そしてそれがいかに正しいことでも、

その時にはもう取り返しがつかないのです。

 

「変えるべきこと」と「変えるべきでないこと」

すべてのものごとには、適切なタイミングがあります。

ストラテジーとは、想像力と、
勇気と、タイミングを見極める技術。

だからこそ、これからのストラテジーに必要なのは

自分を愛してくれている人の心を常に想像し、

彼らを失望させたり、彼らに対して傲慢になったりしていないかを常に自問しながら、

「変えないこと」を決める勇気と

「変えること」のタイミングを見極める力を持つことだと思います。

この先も、彼らとずっと歩んでいくために。

自分の都合だけで「変える」ことを続け、

結果的に長く愛してくれた相手を失う段になって初めて

それがいかに大切な絆だったか気付いても、

それはもう「手遅れ」なのですから。

間宮 洋介
YOSUKE MAMIYA
日本を代表する複数のクライアントに対し、チーフ・ストラテジストとして、戦略から表現まで統合されたディレクションでソリューションを提示。関わる領域は、広告コミュニケーションにとどまらず、事業系ソリューション、中長期経営計画立案、インナーのモチベーション・デザインなど多岐にわたる。主な仕事に、キリンビール「淡麗グリーンラベル」「氷結」キリンビバレッジ「午後の紅茶」におけるブランディング/コミュニケーションデザイン、トヨタ自動車「AQUA」「MIRAI」「PRIUS PHV」「C-HR」のコミュニケーション戦略立案、NTTドコモ企業ブランディングなど。